昨年、ブログを使ってこのような夏休み企画(休んでないけど)を実施しました:
「30 日後に死ぬ k8s」


IBM Cloud から提供されている k8s 環境は(ワーカーノード1つなどの条件の下で)30 日間無料で使えます。この環境を使って 30 日間で毎日1つずつ、計 30 種類のコンテナをデプロイして動かす、というものでした。後に追加で動作確認できたり、動作確認はできなかったがデプロイできてるっぽいものもあったのですが、その際も IBM Db2 は公式イメージを docker で動かすことはできたのですが、この k8s 環境ではうまくデプロイできずにいました。

が、最近になって改めて挑戦し、今度は同環境で IBM Db2 コンテナを動かすことができました。Db2 クライアントからの接続も確認できました。以前できなくて今回できた理由ははっきりとはわかっていませんが、自分の腕が上がったのか、イメージ側の更新と関係があるのか、あるいはその両方か・・・ ともあれ、遅ればせながら IBM Db2 コンテナイメージを IBM Cloud の 30 日間無料 k8s クラスタにデプロイして動かす方法を紹介します。


【30 日間無料の k8s クラスタを用意】
こちらの記事を参照して、IBM Cloud の 30 日間無料 k8s クラスタをセットアップしてください。また具体的な操作をする際に必要な ibmcloud CLI や kubectl CLI といったコマンドツール類のインストール手順も含まれています(リンク先最後の "$ kubectl get all" コマンドが正しく実行できる状態にしてください):
http://dotnsf.blog.jp/archives/1079287640.html


なおリンク先でも触れられていますが、この k8s クラスタ環境はシングルワーカーノードです。イメージをデプロイした後に "type = NodePort" を指定することでサービスを公開できます(Ingress などが提供されていないため、他の方法でサービス公開はできません)。


【IBM Db2 コンテナイメージ】
公式な IBM Db2 コミュニティ版のコンテナイメージはこちらから無料で提供されています:
https://hub.docker.com/r/ibmcom/db2


同ページ内の説明文によると、この無料コミュニティ版コンテナイメージを動かす前提条件として、「CPU: 4コア以下、メモリ: 16GB 以下」が挙げられています:
2022011801


一方で IBM Cloud の 30 日間無料 k8s クラスタのワーカーノードは「CPU: 2 コア、メモリ: 4GB」であることがわかっています:
2022011802


一応、条件を満たした環境で使う、ということになります。なおコンテナイメージのリンク先情報によると、2022/01/18 時点で特にバージョンを指定せずにこのコンテナを利用しようとすると、最新版である v11.5.7.0 が使われるようです(以下の内容はこのバージョンで動作確認しています):
2022011803



【IBM Db2 を k8s にデプロイするための yaml ファイル】
色々試行錯誤してできあがった IBM Cloud の 30 日間無料 k8s クラスタにデプロイできるよう調整した yaml ファイルはこちらです:
https://github.com/dotnsf/yamls_for_iks/blob/main/db2_deployment_nodeport.yaml

このファイルを指定して、
$ kubectl apply -f https://raw.githubusercontent.com/dotnsf/yamls_for_iks/main/db2_deployment_nodeport.yaml

とすることでデプロイできます(その場合は db2inst1 ユーザーのパスワードは db2inst1 、サンプル(SAMPLE)データベースは作成、それとは別に db2inst1 ユーザーから使える mydb という空のデータベースも作成する、というオプションが初期設定されています)。

あるいは以下のように一度 wget コマンドでローカルにダウンロードしてから内容をカスタマイズして、その後に改めて kubectl コマンドでデプロイすることも可能です:
$ wget https://raw.githubusercontent.com/dotnsf/yamls_for_iks/main/db2_deployment_nodeport.yaml

(ダウンロードした db2_deployment_nodeport.yaml ファイルをカスタマイズ)

$ kubectl apply db2_deployment_nodeport.yaml


例えば db2inst1 ユーザーのパスワードを変えたい場合は 38 行目を変更、サンプルデータベースを作る必要がなければ 39, 40 行目を削除、mydb データベースもこの時点で作る必要がなければ 41, 42 行目を削除、といった具合です。

なお後者のカスタマイズをする場合に指定可能なオプション内容については公式ページ内"Advanced Configuration Options" 欄を参考に編集してください。

"kubectl get all" コマンドでデプロイ後のクラスタの様子を確認してみます:
$ kubectl get all

NAME                            READY   STATUS    RESTARTS   AGE
pod/db2-54ff649944-w7d24        1/1     Running   0          2d14h
pod/hostname-7b4f76fd59-c8b2l   1/1     Running   0          8d

NAME                 TYPE        CLUSTER-IP      EXTERNAL-IP   PORT(S)           AGE
service/db2          NodePort    172.21.54.211           50000:30500/TCP   2d14h
service/hostname     NodePort    172.21.105.49           8080:30080/TCP    8d
service/kubernetes   ClusterIP   172.21.0.1              443/TCP           8d

NAME                       READY   UP-TO-DATE   AVAILABLE   AGE
deployment.apps/db2        1/1     1            1           2d14h
deployment.apps/hostname   1/1     1            1           8d

NAME                                  DESIRED   CURRENT   READY   AGE
replicaset.apps/db2-54ff649944        1         1         1       2d14h
replicaset.apps/hostname-7b4f76fd59   1         1         1       8d

↑のように Db2 関連の pod, service, deployment, replicaset が1つずつ追加されていればコマンドは成功しています。 また service を見ると 50000 番ポート(Db2 の標準動作ポート)が 30500 番で公開されていることも確認できます。つまり Db2 は
 (ワーカーノードのIPアドレス※):30500
で公開されて動いていることがわかります(※ワーカーノードの IP アドレス確認方法はこちらを参照してください)。


【動作確認】
では実際に Db2 サーバーが正しく動作していることを動作確認してます。。。 と、実はここが大きな問題でした。Db2 サーバーは正しくデプロイされて動作しているのですが、Db2 サーバーに接続試験を行おうとすると、その環境準備がちょっと面倒だったりするのです。

Db2 サーバーに CLI でアクセスしようとすると Db2 クライアントライブラリのダウンロード&インストールが必要です。Node.js などのプログラムから接続するにもクライアントライブラリが必要になります。この Db2 クライアントライブラリをインストールするには、無料版の Db2 Community Edition をダウンロードしてインストールする必要があり、ここで急にハードルが上がってしまいます。

そこでこれらの手間を省くために別の動作確認方法を考えました。それは「Db2 のコンテナインスタンスをもう1つ作って、そこからリモートサーバーにアクセスする」という方法です。マネージドサービスと異なり、Db2 サーバーのコンテナイメージからはライブラリセットアップ済みの CLI も使えるのです。そのための Db2 コンテナをもう1つ追加で作ってクライアントとして使うことで(手間という意味では)比較的容易に動作確認用クライアント環境が用意できると思いました。

というわけで、先程の yaml ファイルを少し変更(サンプルDB 作らず、mydb DBも作らず、ポート番号は 30501 に変更、コンテナの名称も db2 から db2cli に変更)した yaml ファイルを使って、(機能的にはサーバー機能もインストール済みですが)新しい Db2 クライアントコンテナを作成します:
$ kubectl apply -f https://raw.githubusercontent.com/dotnsf/yamls_for_iks/main/db2cli_deployment_nodeport.yaml

作成後にクラスタ内の様子を kubectl コマンドで確認すると、新しい db2cli インスタンスが起動しているはずです:
$ kubectl get all
NAME                            READY   STATUS    RESTARTS   AGE
pod/db2-54ff649944-w7d24        1/1     Running   0          2d14h
pod/db2cli-86d476659d-m7c6d     1/1     Running   0          9s
pod/hostname-7b4f76fd59-c8b2l   1/1     Running   0          8d

NAME                 TYPE        CLUSTER-IP      EXTERNAL-IP   PORT(S)           AGE
service/db2          NodePort    172.21.54.211           50000:30500/TCP   2d14h
service/db2cli       NodePort    172.21.112.13           50000:30501/TCP   11s
service/hostname     NodePort    172.21.105.49           8080:30080/TCP    8d
service/kubernetes   ClusterIP   172.21.0.1              443/TCP           8d

NAME                       READY   UP-TO-DATE   AVAILABLE   AGE
deployment.apps/db2        1/1     1            1           2d14h
deployment.apps/db2cli     1/1     1            1           11s
deployment.apps/hostname   1/1     1            1           8d

NAME                                  DESIRED   CURRENT   READY   AGE
replicaset.apps/db2-54ff649944        1         1         1       2d14h
replicaset.apps/db2cli-86d476659d     1         1         1       11s
replicaset.apps/hostname-7b4f76fd59   1         1         1       8d

ここからは db2cli コンテナからの作業となります。まずは db2cli コンテナ上のシェルにログインする必要があります。まずは IBM Cloud の k8s サービスからダッシュボードにアクセスします:
2022011801


ダッシュボード画面左メニューから「ポッド」を選び、ポッド一覧から "db2cli" で始まる名前のポッドを探し、画面右のメニューから「実行」を選択します:
2022011802


これで該当 Pod のシェルをブラウザからリモート操作できるようになります:
2022011803


以下の手順で(最初に作った方の)Db2 サーバーに接続して SQL を実行する、という動作確認をします。

まずは Db2 を利用可能なユーザー(db2inst1)にスイッチします(プロンプトが # から $ へ切り替わります):
# su - db2inst1
$

次に Db2 コマンドをインタラクティブに実行できるシェルに切り替えます(プロンプトが $ から db2 => に切り替わります):
$ db2
db2 =>

この状態から Db2 サーバーに接続したり、ログインしたり、SQL を実行したりできます。まずは Db2 サーバーへの接続が必要です。Db2 ではリモートサーバーやデータベースを「カタログ」という単位で管理するので、まず最初にリモート Db21 サーバーを db2onk8s という名前でカタログに登録します。以下のコマンドを実行します(1.2.3.4 部分はワーカーノードの IP アドレスに置き換えてください):
db2 => catalog tcpip node db2onk8s remote 1.2.3.4 server 30500

次にこのサーバー上の SAMPLE データベースをカタログに登録します:
db2 => catalog database sample at node db2onk8s

これで Db2 クライアントから Db2 サーバー上の SAMPLE データベースに接続するためのカタログができました。

ではこのデータベースカタログを使って Db2 サーバー上の SAMPLE データベースに接続します。このコマンドを入力した後に db2inst1 ユーザーのパスワードを聞かれるので、Db2 サーバーのコンテナを作成した時に指定した db2inst1 ユーザーのパスワード(変更していない場合は db2inst1)を入力してください:
db2 => connect to sample user db2inst1
Enter current password for db2inst1:


正しいパスワードを入力すると目的のデータベースに接続します。この状態で Db2 クライアントから Db2 サーバーに接続しています:
db2 => connect to sample user db2inst1
Enter current password for db2inst1:

   Database Connection Information

 Database server        = DB2/LINUXX8664 11.5.7.0
 SQL authorization ID   = DB2INST1
 Local database alias   = SAMPLE

db2 => 

SQL を使って Db2 サーバーの SAMPLE データベースのテーブルからレコードを取り出したり、追加・変更・削除といった操作が可能です:
db2 => select * from employee;

EMPNO  FIRSTNME     MIDINIT LASTNAME        WORKDEPT PHONENO HIREDATE   JOB      EDLEVEL SEX BIRTHDATE  SALARY      BONUS       COMM       
------ ------------ ------- --------------- -------- ------- ---------- -------- ------- --- ---------- ----------- ----------- -----------
000010 CHRISTINE    I       HAAS            A00      3978    01/01/1995 PRES          18 F   08/24/1963   152750.00     1000.00     4220.00
000020 MICHAEL      L       THOMPSON        B01      3476    10/10/2003 MANAGER       18 M   02/02/1978    94250.00      800.00     3300.00
000030 SALLY        A       KWAN            C01      4738    04/05/2005 MANAGER       20 F   05/11/1971    98250.00      800.00     3060.00
000050 JOHN         B       GEYER           E01      6789    08/17/1979 MANAGER       16 M   09/15/1955    80175.00      800.00     3214.00
000060 IRVING       F       STERN           D11      6423    09/14/2003 MANAGER       16 M   07/07/1975    72250.00      500.00     2580.00
000070 EVA          D       PULASKI         D21      7831    09/30/2005 MANAGER       16 F   05/26/2003    96170.00      700.00     2893.00
000090 EILEEN       W       HENDERSON       E11      5498    08/15/2000 MANAGER       16 F   05/15/1971    89750.00      600.00     2380.00
000100 THEODORE     Q       SPENSER         E21      0972    06/19/2000 MANAGER       14 M   12/18/1980    86150.00      500.00     2092.00
000110 VINCENZO     G       LUCCHESSI       A00      3490    05/16/1988 SALESREP      19 M   11/05/1959    66500.00      900.00     3720.00
000120 SEAN                 O'CONNELL       A00      2167    12/05/1993 CLERK         14 M   10/18/1972    49250.00      600.00     2340.00
000130 DELORES      M       QUINTANA        C01      4578    07/28/2001 ANALYST       16 F   09/15/1955    73800.00      500.00     1904.00
000140 HEATHER      A       NICHOLLS        C01      1793    12/15/2006 ANALYST       18 F   01/19/1976    68420.00      600.00     2274.00
000150 BRUCE                ADAMSON         D11      4510    02/12/2002 DESIGNER      16 M   05/17/1977    55280.00      500.00     2022.00
000160 ELIZABETH    R       PIANKA          D11      3782    10/11/2006 DESIGNER      17 F   04/12/1980    62250.00      400.00     1780.00
000170 MASATOSHI    J       YOSHIMURA       D11      2890    09/15/1999 DESIGNER      16 M   01/05/1981    44680.00      500.00     1974.00
000180 MARILYN      S       SCOUTTEN        D11      1682    07/07/2003 DESIGNER      17 F   02/21/1979    51340.00      500.00     1707.00
000190 JAMES        H       WALKER          D11      2986    07/26/2004 DESIGNER      16 M   06/25/1982    50450.00      400.00     1636.00
000200 DAVID                BROWN           D11      4501    03/03/2002 DESIGNER      16 M   05/29/1971    57740.00      600.00     2217.00
000210 WILLIAM      T       JONES           D11      0942    04/11/1998 DESIGNER      17 M   02/23/2003    68270.00      400.00     1462.00
000220 JENNIFER     K       LUTZ            D11      0672    08/29/1998 DESIGNER      18 F   03/19/1978    49840.00      600.00     2387.00
000230 JAMES        J       JEFFERSON       D21      2094    11/21/1996 CLERK         14 M   05/30/1980    42180.00      400.00     1774.00
000240 SALVATORE    M       MARINO          D21      3780    12/05/2004 CLERK         17 M   03/31/2002    48760.00      600.00     2301.00
000250 DANIEL       S       SMITH           D21      0961    10/30/1999 CLERK         15 M   11/12/1969    49180.00      400.00     1534.00
000260 SYBIL        P       JOHNSON         D21      8953    09/11/2005 CLERK         16 F   10/05/1976    47250.00      300.00     1380.00
000270 MARIA        L       PEREZ           D21      9001    09/30/2006 CLERK         15 F   05/26/2003    37380.00      500.00     2190.00
000280 ETHEL        R       SCHNEIDER       E11      8997    03/24/1997 OPERATOR      17 F   03/28/1976    36250.00      500.00     2100.00
000290 JOHN         R       PARKER          E11      4502    05/30/2006 OPERATOR      12 M   07/09/1985    35340.00      300.00     1227.00
000300 PHILIP       X       SMITH           E11      2095    06/19/2002 OPERATOR      14 M   10/27/1976    37750.00      400.00     1420.00
000310 MAUDE        F       SETRIGHT        E11      3332    09/12/1994 OPERATOR      12 F   04/21/1961    35900.00      300.00     1272.00
000320 RAMLAL       V       MEHTA           E21      9990    07/07/1995 FIELDREP      16 M   08/11/1962    39950.00      400.00     1596.00
000330 WING                 LEE             E21      2103    02/23/2006 FIELDREP      14 M   07/18/1971    45370.00      500.00     2030.00
000340 JASON        R       GOUNOT          E21      5698    05/05/1977 FIELDREP      16 M   05/17/1956    43840.00      500.00     1907.00
200010 DIAN         J       HEMMINGER       A00      3978    01/01/1995 SALESREP      18 F   08/14/1973    46500.00     1000.00     4220.00
200120 GREG                 ORLANDO         A00      2167    05/05/2002 CLERK         14 M   10/18/1972    39250.00      600.00     2340.00
200140 KIM          N       NATZ            C01      1793    12/15/2006 ANALYST       18 F   01/19/1976    68420.00      600.00     2274.00
200170 KIYOSHI              YAMAMOTO        D11      2890    09/15/2005 DESIGNER      16 M   01/05/1981    64680.00      500.00     1974.00
200220 REBA         K       JOHN            D11      0672    08/29/2005 DESIGNER      18 F   03/19/1978    69840.00      600.00     2387.00
200240 ROBERT       M       MONTEVERDE      D21      3780    12/05/2004 CLERK         17 M   03/31/1984    37760.00      600.00     2301.00
200280 EILEEN       R       SCHWARTZ        E11      8997    03/24/1997 OPERATOR      17 F   03/28/1966    46250.00      500.00     2100.00
200310 MICHELLE     F       SPRINGER        E11      3332    09/12/1994 OPERATOR      12 F   04/21/1961    35900.00      300.00     1272.00
200330 HELENA               WONG            E21      2103    02/23/2006 FIELDREP      14 F   07/18/1971    35370.00      500.00     2030.00
200340 ROY          R       ALONZO          E21      5698    07/05/1997 FIELDREP      16 M   05/17/1956    31840.00      500.00     1907.00

  42 record(s) selected.


この時点で k8s ダッシュボード画面はこのようになっています。必要に応じて続けてコマンドを実行することもできます:
2022011800


操作を終了して接続を切るには quit コマンドを実行します:
db2 => quit

$ exit

# 


改めて k8s 上にデプロイした Db2 サーバーコンテナ(とクライアントコンテナ)が期待通りに動いていることが確認できました。