たまに子供や初心者を相手にプログラミングを教えてみせたりする際に Scratch を使っています:
Screenshot from 2018-05-04 15-28-23


MIT メディアラボが開発した GUI によるプログラミング開発言語および実行環境です。プログラムをエディタでガリガリと記述するような、いわゆる「コーディング」に相当する作業があまり必要なく、GUI を中心とした見た目に対する処理や変更をイベント単位に足していきながら少しずつ動くものを作っていくものです。そのためユーザーが完成形をイメージしながら作っていくことができ、コーディングそのものに不慣れな人がプログラミングを理解するのに向いていると思っています。

この Scratch は良くも悪くも GUI 中心の作業になるため、他の環境との連携が難しい(というか、そもそもどういう外部インターフェースが用意されているのかわかっていなかった)という印象を持っていました。Scratch の閉じた世界の中では初心者にも簡単でわかりやすい、という面があるのと同時に、Scratch 以外の環境とは繋がりにくいと思っていました。

で、なんかインターフェースが公開されてないかなあ・・・ と思って探していたら、この Scratch の国内第一人者でもある石原さんが書かれた一連のブログを見つけました:
Scratch(スクラッチ)を外部のプログラムなどとつなぐ「遠隔センサー接続」を解説する(その1)


↑このブログで書かれている内容は Scratch 1.4 の「遠隔センサーを有効に設定」して 42001 番ポートを開放した上で、TCP/IP のメッセージングによる連携を Ruby で行う、というものです。基本的にはほぼ同じ内容を Node.js で実装してみようと思い、調べた結果をまとめました。


なお、石原さんは「まちくえすと」の開発などで活躍されていてご存知の方もいらっしゃると思いますが、拙作マンホールマップiOS アプリ版の開発に尽力いただいたご縁もあり、そのお付き合いの中で Scratch のことも教えていただきました。僕にとっては「Scratch の先生」でもあります。石原さん、このブログとても助かりました。ありがとうございます!



まず、以下の作業を行う前提として、Scratch はローカルインストール可能なバージョン 1.4 を使う必要があります。公式サイトからオンライン版であるバージョン 2.0 以降を利用することも可能ですが、以下で紹介する Node.js 連携は Scratch 1.4 をローカルインストールして使う想定で記載しています。各種 OS 向けの Scratch 1.4 はこちらからダウンロードして導入してください(以下、Ubuntu 16.04 環境に Scratch 1.4 を導入した前提で記述します):
https://scratch.mit.edu/scratch_1.4/



まず最初に、Scrach を外部連携するためのポート開放を行います。Scratch 1.4 を起動し、「調べる」カテゴリ内「●●センサーの値」と書かれたブロックを右クリックして、「遠隔センサー接続を有効にする」を選択します:
Screenshot from 2018-05-04 15-29-09


すると「遠隔センサー接続が有効になりました」という確認ダイアログが表示されます:
Screenshot from 2018-05-04 15-29-39



この作業後、Scratch は 42001 番ポートで接続できるようになっています。つまり僕の以前のブログで紹介したような TCP/IP プログラミングによって Scratch との TCP/IP 接続が可能になっているのでした。試しに以下のような Node.js プログラム(scratch01.js)を書いて実行してみます(以前のブログで書いたものよりも更に簡略化し、最小限必要な内容だけにしています):
var net = require( 'net' );

//. 接続先 IP アドレスとポート番号
var host = '127.0.0.1';
var port = 42001;

//. 接続
var client = new net.Socket();
client.connect( port, host, function(){
  console.log( '接続: ' + host + ':' + port );
});

//. サーバーからメッセージを受信したら、その内容を表示する
client.on( 'data', function( data ){
  console.log( '' + data );
});

↑このプログラムを実行すると、127.0.0.1(自分自身)の 42001 番ポートに TCP/IP 接続し、接続先から何かメッセージが送られてくるとそのメッセージ内容を文字列化してそのまま表示する、というものです。これをまず node コマンドを使って実行しておきます:
$ node scratch01.js

これで 42001 番ポートに接続し、メッセージの受信待ち状態になりました。


そして Scratch 側からはこの(42001 番ポートの)接続先に対してメッセージを送信してみます。この処理を行うには「制御」カテゴリ内「●●を送る」ブロックを使います:
Screenshot from 2018-05-04 15-40-55


同ブロックを右クリックして「新規」を選択し、メッセージの名前を任意に指定します。以下の例ではメッセージの名前に Hello と指定してます:
Screenshot from 2018-05-04 15-42-14


するとブロックの表示内容が「Hello を送る」と切り替わります。この状態で同ブロックを何度かマウスでクリックします(クリックするたびにこのブロックが処理を実行します):
Screenshot from 2018-05-04 15-42-41


すると先に実行していた Node.js プログラムのコンソール画面に(最初の制御文字に続いて) 
broadcast "Hello"
という文字行がクリックするたびに表示されます:
Screenshot from 2018-05-04 15-46-59


この結果から Scratch の「●●を送る」ブロックを1回実行すると
broadcast "(指定したメッセージ)"

という文字列が送信される、ということが分かりました。これで Scratch から Node.js のプログラムにメッセージを送信し、Node.js プログラム側でその内容を受信することができました。


この応用で逆に Node.js から Scratch にメッセージを送ることもできます。例えば scratch02.js を以下の内容で作成します(接続後に 'broadcast "a"' というメッセージを Scratch に送信する、という内容です):
//. scratch02.js
var net = require( 'net' );
var host = '127.0.0.1';
var port = 42001;

var client = new net.Socket();
client.connect( port, host, function(){
  console.log( '接続: ' + host + ':' + port );

  var msg = 'broadcast "a"';
  var len = msg.length;
  var buf = pack( len );
  client.write( buf + msg );  //. msg の内容を Scratch へ送信
});

//. 4バイトのバイト列(Buffer)に変換
function pack( n ){
  var m1 = n % 256;
  n = Math.floor( n / 256 );
  var m2 = n % 256;
  n = Math.floor( n / 256 );
  var m3 = n % 256;
  var m4 = Math.floor( n / 256 );

  return new Buffer( [ m4, m3, m2, m1 ] );
}



そして Scratch 側では 'broadcast "a"' というメッセージを受け取ったら何らかの処理がスタートする、というプログラムを書いておきます(下の例ではスプライト1の猫のキャラクターが画面内を歩き始める処理がスタートする、という内容にしています):
Screenshot from 2018-05-05 15-54-06


この状態で scratch02.js を実行すると、TCP/IP 通信によって Scratch に接続し、broadcast "a" というメッセージが送られ、Scratch のスプライト1のキャラクターが壁に跳ね返りながら動き回る処理がスタートします(特に止める方法を用意していないので、止めるには画面右上の赤丸部分をクリックしてください):
Screenshot from 2018-05-05 16-02-12


これで Scratch から Nodejs にメッセージを送ったり、逆に Node.js から Scratch にメッセージを送る、ということが実現できました。