まだプログラマーですが何か?

プログラマーネタ中心。たまに作成したウェブサービス関連の話も https://twitter.com/dotnsf

ラズベリーパイを個人で2台持ってます。 うち一台(Raspberry Pi 2)は常用、というか常に自宅のネットワークに繋げて電源も入っています。SSH や VNC で常にアクセスできる環境が整っています。そういう意味でも「常用」です。

もう一台(Raspberry Pi B+)は、元々はこっちを常用機として使っていましたが、2を買ったらさすがに常用機としてはスペックの高い方にしたくなったため交換しました。結果として、こいつは電源を入れればいつでも動く状態ではありつつも余っていました。 そういうこともあり、新しいことにチャレンジする際の実験機的な位置付けになりました。ぶっちゃけ「壊れてもいいや」的な。


今回挑戦したのは「シリアル接続」です。ラズベリーパイ(以下「ラズパイ」)はネットワークに繋がった状態で起動していて、かつその IP アドレスが分かっていれば SSH や VNC でログインして使うことができて非常に便利なコンパクト Linux 環境です。でもネットワークに繋がっていても DHCP 環境などで IP アドレスが分からない場合にどうやって調べるかというと、(PiFinder など外部から IP アドレスを調べる専用のツールもあったりしますが)USB キーボードと HDMI ディスプレイを繋いで、キーボードからログインして ifconfig コマンドなどで IP アドレスを調べて・・・という手順が必要になります。が、そもそもキーボードを用意するとか、HDMI ケーブルを用意するとか、そのケーブルが届く範囲に外部ディスプレイを用意するとか、準備のハードルがかなり上がってしまいます。また(ネットワークの設定前の段階や、普段と異なるネットワーク環境に持ちだした場合などで)そもそもネットワークが繋がっていない状態では PiFinder も使えないので、結局設定のための最初の1回のためだけにこれらのキーボードやディスプレイの準備も必要になってしまいます。

それをどうにかするための方法の1つが「シリアル接続」です。要するにラズパイと手元の PC をシリアルに直結した上で、シリアル接続をサポートするターミナルアプリからラズパイに接続してログインする、という方法です。特に目新しい方法ではなく、PC に TCP/IP 環境がなかった昔はむしろこっちの方法が主流でした。オッサンの出番です(笑)!


用意するのはラズパイに加えてこの3つです:
(1) ラズパイで使える USB シリアルケーブル
(2) (1) のデバイスドライバ
(3) シリアル接続をサポートするターミナルアプリ


自分のメイン PC は Windows7 ということもあって、(1) にはこの変換ケーブルを使うことにしました:
https://strawberry-linux.com/catalog/items?code=15076

ラズパイの GPIO を使ってシリアル接続し、かつ USB ポートに変換して PC とつなげる、というケーブルです。Windows8 以降だとデバイスドライバが正しく動作しない、と書かれてます。Windows8 以降や他の環境をお使いのみなさん、ごめんなさい。

(2) のデバイスドライバですが、上記ケーブルの場合であればリンク先ページの「Windowsドライバ」と書かれたリンク先からダウンロードできます。


また (3) のターミナルアプリですが、自分は TeraTerm を使いました:
2015101601



では実際にシリアル接続するまでを紹介します。まずはデバイスドライバのインストールです。ラズパイの電源を切って、ケーブル接続も何もしない状態で、(2) のデバイスドライバをダウンロード&展開し、実行ファイルをダブルクリックしてインストールします:
2015101602


次に USB シリアルケーブルでラズパイと PC とを接続します。ラズパイ側の GPIO の 6(GND), 8(TXD), 10(RXD) 番のピンに、ケーブルの赤、緑、青のケーブルをそれぞれ差し込みます:
2015101603

そしてケーブルのもう一方の端を PC の USB ポートに接続します(ラズパイにはまだ電源の USB ケーブルはつなぎません)。するとプラグアンドプレイでデバイスドライバが導入されます。この画面だと COM6 として認識されたことになっていますが、ここは環境によって異なります:
2015101604


この段階でデバイスマネージャーを起動して COM のポートを確認すると、上記で "USB-to-Serial" のデバイスが、COM6 として認識されていることが分かります。つまりシリアル接続では(この例では)COM6 ポートを指定して接続すればよい、ということになります:
2015101605


では実際に接続してみます。シリアル接続をサポートするアプリ(この例では TeraTerm)を起動して、認識された COM ポートを指定してシリアル接続します:
2015101606


接続後に COM 接続の設定を変更します。TeraTerm の場合、デフォルトではシリアルポートのボーレートが低いので上げておきます。メニューの 設定→シリアルポート を選択します:
2015101607


指定 COM ポートのボーレートを 9600 から 115200 に変更して OK をクリックします:
2015101608


で、この状態に戻ります。これでラズパイにシリアル接続して待ち受け状態になりました:
2015101609


ここではじめてラズパイに電源ケーブルをつなぎます。するとブートプロセスの画面がシリアルターミナル画面に次々と表示され、ログインを待つ状態のプロンプトが表示されます:
2015101610

※途中で "Welcome to rescue login" というメッセージが表示されて画面が止まりますが、そこでは何もせずにしばらく待つと通常のブートプロセスが開始され、ログインプロンプトが表示されます。


ログインすると普通に操作できます。ちなみに ifconfig でネットワーク接続がないことを確認してみました:
2015101611


lo はループバックなので、本体から見た自分自身です。そして eth0 (有線LAN)と wlan0 (無線LAN)はハードウェアの認識こそされていますが、IP アドレスは割り振られていません(でも接続してこの画面が見れている、ということです)。

ネットワークがなくてもラズパイが使えることが確認できました!


前回までの続きです:
Bluemix のビルドパックを作る(1/3)
Bluemix のビルドパックを作る(2/3)


このシリーズは3回に分けて IBM Bluemix 用のビルドパックをゼロから作成する手順を説明するもので、今回はその3回目です:
(1) ビルドパックを作る上で知っておくべきこと
(2) ビルドパックを作るための準備作業    
(3) ビルドパックを作成して、実際に動作確認
  ←今回はここ

前回までに、ビルドパックを作成する上で知っておくべき仕組みや制限事項についてをまとめ、実際に PHP + Apache HTTP Server 環境のビルドパックを作る上で必要になるモジュール(ビルドパック実行時の権限では作れないモジュール)の作成を終えました。

では今回はこれらのモジュールを使って、実際のビルドパックを作成し、実際に IBM Bluemix 上のランタイムとして起動し、動作を確認するまでを紹介します。

ではビルドパック作成環境にログインします。前回の作業は Ubuntu 環境下で行う必要がありましたが、ここからは Ubuntu である必要はありません(Windows や Mac, Ubuntu 以外の Linux でも構いません)。が、以下はそのまま Ubuntu を使って作業する前提(つまり前回の作業で出来上がったモジュールもローカル内にあるという前提)で紹介をします。 というわけで改めて Ubuntu 環境に SSH 等でログインします:
2015100901


作業用のディレクトリを用意します。今回は /tmp/buildpack というディレクトリを新たに作成して、この中で作業することにします:
$ mkdir -p /tmp/buildpack
$ cd /tmp/buildpack


上記作業内容の (1) で紹介したように、ビルドパックは3つのスクリプトを用意することで作成します。この3つのスクリプトを /tmp/buildpack/bin 以下に作成します。3つのスクリプトは Ruby などのスクリプト言語を利用することもできますが、今回は(個人的な慣れもあって)シェルを使って記述することにします:
$ mkdir bin
$ cd bin
$ touch detect
$ touch compile
$ touch release
$ chmod 775 detect
$ chmod 775 compile
$ chmod 775 release
$ cd ..


また、このスクリプト(具体的には compile スクリプト)の中では、前回の作業 (2) で作成した PHP と Apache HTTP Server 2つのモジュールを使うことになります。これらのモジュールをあらかじめビルドパックのディレクトリ内にコピー(または移動)しておきます。前回の作業 (2) と異なる環境で今回の作業をしている場合は、前回の環境からこれらのモジュールを SFTP などで転送して取得してください:
$ mkdir -p download/httpd/2.4
$ mv /app/apache-2.4.16.tar.gz download/httpd/2.4
$ mkdir -p download/php/5.6
$ mv /app/php-5.6.14.tar.gz download/php/5.6


また、PHP および Apache HTTP Server の動作設定とも言える php.ini と httpd.conf ファイルもあらかじめ用意しておきます:
$ mkdir config
$ vi config/httpd.conf
   :

$ vi config/php.ini
   :


これらのファイルの内容は皆さんが作成していただいても構わないのですが、今回は日本語を使う前提で、比較的緩めの条件設定で環境構築をするような内容にしています。具体的な内容は以下のリンク先と同じものです。これらと同じ内容で2つのファイルを用意/編集しておくと、かなりゆるゆるで、本番環境としてはともかく、開発テスト用に便利な PHP ランタイムができます:
https://github.com/dotnsf/php-apache-buildpack/tree/master/config

なお、注意事項として Apache HTTP Server が動作するポートは固定値ではなく、必ず環境変数 PORT から取得して起動させる必要があることに注意してください。したがって httpd.conf 内の Listen ディレクティブの指定は必ず以下の様な指定になっている必要があります:
  :
  :
Listen ${PORT}
  :
  :


あらためて、ここから3つのスクリプトを作っていきます。まずは detect スクリプトを作ります。このスクリプトはビルドパックの適用に適した環境が整っているかどうかを判断して、ふさわしいと判断した場合だけ次にすすめるようにする、というためのスクリプトです。 今回は PHP + Apache HTTP Server のビルドパックなので、選択肢としては「無条件にふさわしいと判断する」というのもアリですが、勉強目的もあるので多少強引に何らかの条件を付けるようにしてみましょう。

というわけで、今回の detect スクリプトでは
 ドキュメントルートに index.php ファイルが存在していたらビルドパック適用条件を満たしている、
 index.php が存在していない場合はビルドパックを適用しない

という条件判断をさせることにします。

また、これも (1) の中で説明していますが、detect スクリプトは実行ディレクトリ("cf push" を実行した時のカレントディレクトリ)を引数に受け取ります。この引数を使って、detect スクリプトを以下のような内容で編集します:

※ bin/detect の中身
#!/usr/bin/env bash
################################################################################
# bin/detect <build-dir>                                                       #
################################################################################

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# ドキュメントルートに index.php が存在している時だけ有効                      #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
if [ -f $1/index.php ]; then
  echo "My PHP Env"
  exit 0
else
  exit 1
fi


これで detect スクリプトによって、カレントディレクトリに index.php ファイルが存在している時だけ実行結果として 0 を返して compile スクリプト続行、存在してない場合は 1 が返されて処理が止まる、という実装にしました。


続いて compile スクリプトを作ります。ここがいわば「ビルドパックの本体」といえる部分で、実際のサーバー環境を、このスクリプト1つだけで構築していくことになるものです。

この compile スクリプトの中では前回の作業 (2) で作成したモジュールを使います:

※ bin/compile の中身
#!/usr/bin/env bash
################################################################################
# bin/compile <build-dir> <cache-dir>                                          #
################################################################################

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# 変数を設定                                                                   #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
BIN_DIR=$(dirname $0)
BUILDPACK_DIR=`cd $(dirname $0); cd ..; pwd`
BUILD_DIR=$1
CACHE_DIR=$2

APACHE_VERSION="2.4.16"
APACHE_PATH="apache"
PHP_VERSION="5.6.14"
PHP_PATH="php"

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# ドキュメントルート(/app/www/)の設定                                          #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
cd $BUILD_DIR

mkdir -p $CACHE_DIR/www
mv * $CACHE_DIR/www
mv $CACHE_DIR/www .

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# コンパイル済みの Apache HTTP Server を展開                                   #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
APACHE_DIR="${BUILDPACK_DIR}/download/httpd/2.4/apache-$APACHE_VERSION.tar.gz"
echo "-----> Bundling Apache version $APACHE_VERSION"
tar -xvf $APACHE_DIR

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# コンパイル済みの PHP を展開                                                  #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
PHP_DIR="${BUILDPACK_DIR}/download/php/5.6/php-$PHP_VERSION.tar.gz"
echo "-----> Bundling PHP version $PHP_VERSION"
tar -xvf $PHP_DIR 

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# httpd.conf と php.ini を上書き                                               #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
ls -al $BUILDPACK_DIR
cp $BUILDPACK_DIR/config/httpd.conf $APACHE_PATH/conf
cp $BUILDPACK_DIR/config/php.ini $PHP_PATH

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# php のパスを設定                                                             #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
mkdir -p bin
ln -s /app/php/bin/php bin/php

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# Apache HTTP Server 起動スクリプト(boot.sh)作成                               #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
cat >> boot.sh <<EOF
for var in \`env|cut -f1 -d=\`; do
echo "PassEnv \$var" >> /app/apache/conf/httpd.conf; done touch /app/apache/logs/error_log touch /app/apache/logs/access_log tail -F /app/apache/logs/error_log & tail -F /app/apache/logs/access_log & export LD_LIBRARY_PATH=/app/php/ext export PHP_INI_SCAN_DIR=/app/www echo "Launching apache" exec /app/apache/bin/httpd -DNO_DETACH EOF chmod +x boot.sh # ---------------------------------------------------------------------------- # # キャッシュディレクトリをクリア # # ---------------------------------------------------------------------------- # rm -rf $CACHE_DIR

最後に release スクリプトを作ります:

※ bin/release の中身
#!/usr/bin/env bash
################################################################################
# bin/release <build-dir>                                                      #
################################################################################

# ---------------------------------------------------------------------------- #
# boot.sh を実行するような YAML ファイルを生成                                 #
# ---------------------------------------------------------------------------- #
cat << EOF
config_vars:
    MYENV: myphp
default_process_types:
    web: sh boot.sh
EOF

これでビルドパックは完成です。作業した /tmp/buildpack 以下のディレクトリ/ファイル構成は以下の様な状態になっているはずです:
/tmp/buildpack/
 |- bin/
 |   |- compile
 |   |- detect
 |   |- release
 |- config/
 |   |- httpd.conf
 |   |- php.ini
 |- download/
     |- httpd/
     |   |- 2.4/
     |   |    |- apache-2.4.16.tar.gz
     |- php/
         |- 5.6/
              |- php-5.6.14.tar.gz


ではこのビルドパックを実際に使ってみます。が、そのためにはこのビルドパックをインターネット上の Git リポジトリに公開する必要があります。普段お使いの環境にオリジナルの Git 環境があればそこを使ってもいいのですが、今回は GitHub 上に公開しましょう。GitHub のアカウントを取得できていない場合は取得して、ログインまでを済ませておきます:
2015101002


画面右上の "+" 印をクリックし、"New repository" を選択して、新しいソースリポジトリを作成します:
2015101003


リポジトリの名前、説明(オプション)、そして Public リポジトリか Private リポジトリかを選択します。名前は何でもいいのですが、わかりやすいように "php-apache-buildpack" としました。説明はオプションで加えます。GitHub の有料アカウントであれば Private リポジトリを選ぶこともできますが、せっかくなので(というか、この後の話がややこしくならないように)Public を選択して公開しちゃいましょう。最後に "Create Repository" ボタンをクリックします:
2015101004


するとこんな感じの画面になり、ソースリポジトリが新規に追加できました。この時の URL (https://github.com/(ユーザー名)/(リポジトリ名)) を後で使うのでメモしておいてください。今はまだ中身が空ですが、ここに先程作ったビルドパックを転送します:
2015101005


改めて作業環境に戻ります。ここからは git クライアントによる作業になるため、git が必要です。git コマンド未導入の場合はコマンドラインで以下のように入力して git をインストールしておきます:
$ sudo apt-get install git

そしてビルドパックを作成したディレクトリ(/tmp/buildpack)に移動して、以下のコマンドを入力し、上記で作成した GitHub 上のリポジトリに転送します:
$ cd /tmp/buildpack
$ git init
$ git add .
$ git commit -m 'first commit'
$ git remote add origin https://github.com/****(先程メモしたリポジトリのURL)****.git
$ git push -u origin master
(GitHub 上のユーザー名を入力)
(GitHub のパスワードを入力)

転送完了後、改めてリポジトリの URL にブラウザでアクセス(まだ開いていればリロード)すると、作成したビルドパックが転送され、中身が入ったリポジトリになっているはずです。これでビルドパックの公開もできました:
2015101006



では最後にこのビルドパックを使って、実際に Bluemix 上にランタイムを1つ構築してみます。cf ツールをインストールしたマシンのあるディレクトリに index.php という名前で、以下のような phpinfo(); を実行するだけの内容のファイルを作成します:
<?php phpinfo(); ?>

また Bluemix 上にランタイムを1つ作ります。言語は(この後に変えるので)何を指定しても構いません。この例では dotnsf-php-20151010 という名前で作成していますが、実際には一意になるような名前を指定してください:
2015101001


そしてこの index.php ファイルが存在しているディレクトリから cf ツールで Bluemix 上にログインし、作成したビルドパックを指定してこのランタイムにプッシュします:
> cf login -a https://api.ng.bluemix.net/
(Bluemix のユーザー名を指定)
(パスワードを指定)

> cf push dotnsf-php-20151010 -b https://github.com/dotnsf/php-apache-buildpack.git
   :
   :
#0   running   2015-10-10 08:37:34 PM   0.2%   61.9M of 128M   163.5M of 1G


プッシュが成功したら、実際にこのランタイムの URL にアクセスして、phpinfo() の結果が表示されることを確認します。ちゃんと PHP のアプリケーションサーバーとして動いていることが確認できました:
2015101002


この中身をよく見ると、ビルドパックを作成した際に指定した内容で稼働していることが確認できます。というわけで元の(Bluemix の)PHP ランタイム環境ではなく、カスタマイズして作成した PHP ランタイムが動いていることも分かります:
2015101003


長い連載になりましたが、これで Bluemix のビルドパックを作って、公開して、実際に使ってみる所までが確認できました。PHP 以外のビルドパックを作る場合も、(権限の問題がないものであれば)この応用で作れると思います。是非色々チャレンジしていただけると嬉しいです。

前回の続きです:
Bluemix のビルドパックを作る(1/3)


このシリーズは3回に分けて IBM Bluemix 用のビルドパックをゼロから作成する手順を説明するもので、今回はその2回目です:
(1) ビルドパックを作る上で知っておくべきこと
(2) ビルドパックを作るための準備作業      ←今回はここ
(3) ビルドパックを作成して、実際に動作確認


前回は、ビルドパックを作成する上で知っておくべき仕組みや制限事項についてをまとめました。おおまかには次のような仕組み/条件でビルドパックを作ります:
- ビルドパック自体は detect, compile, release の3つのスクリプトからなる。
- これら3つのスクリプトは一般ユーザー権限で実行される。su や sudo は使えない。
- 素の Ubuntu Linux に対して、これら3つのスクリプトが実行された後に必要な環境が整っているようにする。

今回と次回の2回に分けて、実際にビルドパックをゼロから作成します。正確には実際にビルドパックそのものを作る手順は次回紹介しますが、今回はそのための準備作業を紹介します。具体的には実際にビルドパックを作るスクリプトは一般ユーザー権限でしか実行できないため、ビルドなどの root 権限が必要な作業はあらかじめ(Ubuntu 環境下で)済ませておく必要があります。そのための作業の説明を今回のブログエントリの中で紹介します。

また、今回作成するビルドパックの内容は「比較的緩めな日本語対応 PHP アプリケーションサーバーを作る」こととします。具体的には以下の様なスペック PHP アプリケーションサーバーのビルドパックを作ります:
・ PHP 5.6.14
・ Apache HTTPD 2.4.16
・ PHP の MySQL モジュールと Postgresql モジュールを追加
・ PHP の設定は日本語 UTF-8 ベースで、エラー発生時のエラー内容を出力、ファイルアップロードは1ファイル10MB まで許可、・・・などなど php.ini を緩めに設定
・ Apache HTTPD も .htaccess での設定上書きを許可するなど、ゆるゆるにする

簡単にいえば「php.ini と httpd.conf を緩めに設定するような環境で PHP のビルドパックを作成する」ということです。


では本エントリでの作業に入ります。まずは 64bit の Ubuntu Linux 14.02 環境を用意します。デスクトップ環境は必須ではありません。SSH 等でログインしてターミナル上での操作ができれば大丈夫です:
2015100900



この Ubuntu の中に PHP と Apache HTTPD 環境を構築していきます。といっても、ただインストールすればいいというわけではありません。インストールだけなら "sudo apt-get install php5 apache2 libapache2-mod-php5" とかを実行すればいいのですが、これは sudo が使える前提での話です。上記のようにビルドパック作成時の権限は sudo の使えないユーザー権限なので、この apt-get による簡単なインストール方法は使えないのです。

ではどうするか? その答は (2) まず Ubuntu 内で必要なモジュールを、ソースからのコンパイルなど全て手作業で作り、 (3) 作ったモジュールを tar などでまとめておき、ビルドパック作成時は一般ユーザーが展開してコピーすればよい、という状態にしておく 必要があるのでした。要は root 権限が必要な部分((2))と、不要な部分((3))に作業を分断し、ビルドパック作成時は root がなくてもできる作業だけを行います。そしてそのような作業だけで済むように、root 権限が必要な作業は(ビルドパック作成作業の前)あらかじめ済ませてまとめておく、という作業を行うようにします。これが全体作業でいうところの (2) と (3) を分けた理由でもあります。

では、あらためて今回行う作業の内容をまとめておきます:
(2-1) Apache HTTPD 2.4.16 をソースからビルドして /app/apache/ 以下にインストール
(2-2) PHP 5.6.14 をソースからビルドして /app/php/ 以下にインストール
(2-3) 出来上がった Apache HTTPD 2.4.16 および PHP 5.6.14 のモジュールを /app/apache/ および /app/php/ 以下からそれぞれ取り出してアーカイブ

こうして出来上がったアーカイブファイルは、Ubuntu 環境の /app/apache/ & /app/php/ 以下であれば動くように作られているので、同じ状態を作り出すようにビルドパックを構成(次回)すればよい、ということになります。今回はそのための準備を行います。


では具体的な作業手順の説明です。まずは Ubuntu 14.02(64bit) のターミナル環境に SSH 等でログインします:
2015100901


まずは作業ディレクトリを作成します。今回は /tmp/build を作業ディレクトリとします:
$ mkdir -p /tmp/build
$ cd /tmp/build


(2-1) Apache HTTPD 2.4.16 のソースコード一式をダウンロードし、作業ディレクトリ内に展開します:
$ curl -L http://www.carfab.com/apachesoftware/httpd/httpd-2.4.16.tar.gz | tar xzf -


Apache HTTP のビルドに必要な apr-1.5.2 および apr-util-1.5.2 をそれぞれダウンロードし、作業ディレクトリ内の srclib/ ディレクトリ内に展開します:
$ cd httpd-2.4.16/srclib
$ curl http://www.us.apache.org/dist/apr/apr-1.5.2.tar.gz | tar xzf -
$ mv apr-1.5.2 apr
$ curl http://www.us.apache.org/dist/apr/apr-util-1.5.4.tar.gz | tar xzf -
$ mv apr-util-1.5.4 apr-util
$ cd ..


Apache HTTP のビルドに必要なライブラリ(libpcre3, libpcre3-dev)を apt-get で入手します:
$ sudo apt-get install libpcre3 libpcre3-dev


Apache HTTP ビルド後のインストールディレクトリを /app/apache/ とする前提でビルド(configure して make して make install )します:
$ ./configure --prefix=/app/apache --with-included-apr --enable-rewrite
$ sudo mkdir -p /app/apache
$ sudo chmod -R 777 /app/
$ make && make install


(2-2) PHP インストール先のディレクトリ(/app/php/)を用意します:
$ sudo mkdir -p /app/php


(2-1) の作業でビルドしたモジュールの一部を PHP のライブラリとしてコピーします:
$ sudo mkdir -p /app/php/ext
$ sudo chmod -R 777 /app/php
$ cp /app/apache/lib/libapr-1.so.0 /app/php/ext
$ cp /app/apache/lib/libaprutil-1.so.0 /app/php/ext
$ cd /app/php/ext
$ ln -s libapr-1.so.0 libapr-1.so
$ ln -s libaprutil-1.so.0 libaprutil-1.so


PHP のビルドに必要なライブラリ(libxml2, libxml2-dev, libssl-dev, ...)を apt-get で入手します。平行して PostgreSQL をサポートするために必要な環境を整えます:
$ cd /tmp/build
$ sudo echo “deb http://apt.postgresql.org/pub/repos/apt/ trusty-pgdg main”> /etc/apt/sources.list.d/pgdg.lis
$ wget --quiet -O - https://www.postgresql.org/media/keys/ACCC4CF8.asc |  sudo apt-key add -OK
$ sudo apt-get update
$ sudo apt-get install libxml2 libxml2-dev libssl-dev libvpx-dev libjpeg-dev libpng12-dev libXpm-dev libbz2-dev libmcrypt-dev libcurl4-openssl-dev libfreetype6-dev postgresql-server-dev-9.4


PHP のソースコード一式をダウンロードし、作業ディレクトリ内に展開します:
$ curl -L http://php.net/get/php-5.6.14.tar.gz/from/us1.php.net/mirror | tar xzf -


PHP ビルド後のインストールディレクトリを /app/php/ とする前提でビルド(configure して make して make install )します:
$ cd php-5.6.14
$ ./configure --prefix=/app/php --with-apxs2=/app/apache/bin/apxs --with-mysqli --with-pdo-mysql --with-pgsql --with-pdo-pgsql --with-iconv --with-gd --with-curl=/usr/lib --with-config-file-path=/app/php --enable-soap=shared --enable-libxml --enable-simplexml --enable-session --with-xmlrpc --with-openssl --enable-mbstring --with-bz2 --with-zlib --with-gd --with-freetype-dir=/usr/lib --with-jpeg-dir=/usr/lib --with-png-dir=/usr/lib --with-xpm-dir=/usr/lib
$ make && make install


MySQL クライアントライブラリを apt-get で入手して、PHP / Apache のライブラリとしてコピーします:
$ sudo apt-get install libmysqlclient-dev
$ cd /app/php/ext
$ cp /usr/lib/x86_64-linux-gnu/libmysqlclient.so.18.0.0 ./
$ ln libmysqlclient.so.18.0.0 libmysqlclient.so.18
$ ln libmysqlclient.so.18.0.0 libmysqlclient.so
$ cp /tmp/build/php-5.6.14/.libs/libphp5.so /app/apache/modules/


(2-3) コンパイルが終了した Apache HTTP のモジュールをアーカイブします:
$ cd /app
$ echo '2.4.16' > apache/VERSION
$ tar -zcvf apache-2.4.16.tar.gz apache


コンパイルが終了した PHP のモジュールをアーカイブします:
$ echo '5.6.14' > php/VERSION
$ tar -zcvf php-5.6.14.tar.gz php




これで (2) の作業が完了して、ビルドパックを作るための作業準備が整いました。今回の作業で出来上がった apache-2.4.16.tar.gz および php-5.6.14.tar.gz はどちらも /app/ 以下にコピーすれば正しく動く前提で作られているので、これらのモジュールを使い、この条件でビルドパックを作ってあげればよい、ということになります。

次回はいよいよ実際にビルドパックを作って、動作確認までしてみます。ゴールは目前!


(注 2015/Oct/16 追記)
続きはこちら

 

このページのトップヘ